子ども(小学生・中学生)のタイピング練習とタッチタイピングに関する最新教育情報

2020年の学習指導要領の改定により、情報教育への取組みが本格的に始まったこと、子ども(幼児、小学生、中学生、高校生)向けのプログラミング教室が普及(プログラミング教育の必修化も背景)したこともあり、タイピングに着目されることが増えました。
パソコンやアプリケーションなどのツールを使いこなす上で必要になるのが「タイピング」であり、画面を見ずにキーボードを打つ「タッチタイピング」を身につけた場合、身につけていない人に比べて2倍のスピードで作業をこなせると言われています。本記事では、子ども(特に義務教育段階)のタイピングに関する情報やデータを分かりやすく簡潔にまとめます。(最終更新:2月3日)

平成20年の学習指導要領で示されたタイピング速度の目標

文部科学省が2015年10月から2016年1月にかけて、情報活用能力調査を実施しました。児童生徒の情報活用の実態について、情報通信技術を活用した調査を実施・把握・分析するとともに、児童生徒の情報活用能力育成のための関係施策の改善・充実を図ることが目的でした。

この調査の中で、文字入力問題(キータイピング)について、小学5年生の児童116校3,343名と中学2年生104校3,338名に対して標本調査が行われました、調査の結果、文字入力速度(キータイピング)は、1分間での入力の平均速度が小学5年生で5.9文字、濁音・半濁音や小文字の入力、アルファベットやカタカナの入力切り替えに課題があるという結果が出ました。5.9文字と聞くとイメージが湧きにくいですが、原稿用紙1枚の文字数は400字、原稿用紙1枚の文章を作るのに約67.7分(約1時間)必要だということです。

タイピングでの文字入力速度については、文部科学省が平成20年(2009年)で示した学習指導要領、教育の情報化が発展することを目的として定めた「児童生徒に身に付けさせたい情報処理能力」の中で、小学生は「10分間に200文字(1分間に20文字)程度の文字が入力できる」を目標に設定していましたが、2015年の段階で全く目標に届いていませんでした。

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タイピングの速さが目標に届かなかった背景と現況

2015年時点の目標と実際に乖離があった要因に挙げられるのは、公立小中学校におけるパソコンの整備状況です。文部科学省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査報告」によれば、2014年段階で小学校ではパソコンが児童1人あたり6.5台しか配備がされておらず、児童生徒1人当たり1台の配備には程遠い結果でした。

しかし、現在では解消されており、2021年3月段階で児童1人あたり、1.4台まで急速に普及が進められています。ここまで整備が進んだ背景は、2019年11月の経済財政諮問会議で安倍晋三首相(当時)が示した「教育現場でパソコンが1人1台普及するのは当然」の発言により、急速に議論が加速したためです。2019年12月には文部科学省が「GIGAスクール構想」を打ち出し、その中で「児童生徒1人につき1台の端末を配備」が明確に設定されました。当時、5か年の計画で立てられた構想でしたが、新型コロナウイルスの緊急事態宣言の発出を受けて、早期実現のための支援を国が積極的に行ったため5か年より早く整備が進められました。

タイピングの速さの最新データ

子ども(小学生・中学生)の最新のタイピング速度に関するデータは、2022年に教育ネットとミラボが実施した「第一回全国統一タイピングスキル調査」が参考になります。この調査は、両社が共同開発したタイピング練習ソフト「らっこたん」を使って計測、日本全国から申込みがあった児童生徒6,813名が参加しました。結果は1分間に49.2文字、2015年のタイピング入力速度の約8倍でした。国が実施した調査ではなく、民間企業の募集に申込みをした児童の結果であることから、国が調査をし場合の入力速度は少し下がるのでは、と言われています。

文部科学省の発表によれば、GIGAスクール構想で配備された端末は、Chromebook(43.8%)、iPad(28.2%)、Windows(28.1%)となっており、タブレットよりパソコンの方が多い(タブレットの場合でも入力用のキーボードが付属している場合が多い)ことから、使用の過程でタイピングをする機会が増えたことも背景にあると推測できます。

学校現場でのタイピング練習の現状

タイピングについて、現行の学習指導要領には「児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動を計画的に実施すること」と定められており、実際に学校現場でタイピング練習が行われています。

学校現場での事例

秦野市立鶴巻小学校(神奈川県)では、「プレイグラムタイピング」が活用されています。パソコンを調べ学習や話合い学習などに活用していくには「タイピングが必須になる」という学校長の考えのもと、小学校低学年からタイピング練習が行われます。その結果、小学3年生で「0.7〜0.9/秒の速さ(1分間に42〜54文字)」でタイピングができるようになっています。

町田市立町田第5小学校(東京都)では、「情報活用能力#東京モデル」に基づき、小学2年生からタイピング練習を進めています。「情報活用能力#東京モデル」とは、文部科学省「教育の情報化の手引き」の中にある「情報活用能力の育成」を発達段階を踏まえ、ステップごとに育成したい能力・資質が示されたものです。
小学1年生の時点で起動やログイン・終了などの基本的な操作をマスターした上で、2年生からローマ字表を用いながらローマ字を学習した後、キーボード検定サイト(キーボー島アドベンチャー)を使ってゲーム感覚でタイピング練習をします。

川崎市総合教育センター「GIGAスクール構想における段階的なICT活用」によると、川崎市内の中学校で週1〜2回、朝の10分間、キーボード検定サイト(キーボー島アドベンチャー)でタイピング練習をさせたところ、半年間で1分間に入力できる文字数が10〜15文字増加しました。また、生徒に課題提出の方法を「タイピング」と「手書き」いづれかの選択ができるようにしたところ、1分間に60文字打つことができる生徒はタイピングを選択、ほぼ全ての課題を提出しているのに対し、1分間に30文字以下しか打つことができない生徒は手書きを選択をしている傾向に加え、未提出課題が大きく増えたという調査結果が出ました。
継続によってタイピング速度と精度が上がる、という結果は、文部科学省「StuDX Style」でも報告されています。ある小学校では、朝10分間のタイピング練習を続けたところ、タイピングテストの正答率が64.24%から1ヶ月で90%以上になりました。

タイピングの速さはどこを目標にするべきか

現在、国から目標としての数値は示されていません。平成20年(2009年)に示された学習指導要領の中で小学生の入力速度の目標は「10分間に200文字程度」としていますが、今の時代にマッチしているとは言えません。実際、働く際に最低限必要とされる速度は「1分間に80文字程度」とされているため、その程度を目標とするのがいいと考えられます。